<映画 王になった男より>
 
 
ワンポイントコラム
<韓国朝鮮 歴史のトリビア>
219. 놋그릇ノックルッ鍮器ユギ(ちゅうき)
 
 
 
 
昨日コリアンタウンの韓国料理店「ピョルチャン」でピビンバを注文すると、珍しくステンレスでは無い器で運ばれて来ました。
これは朝鮮古来の器、鍮器ユギちゅうきです。
薄い金色で、微かに光沢が有り、ズッシリと重量感が有り、盛られた料理がとても美味しそうでした。
 
 
この器を使用した料理店を見た事が無く、初めてだったのでとても新鮮でした。
器を持って帰りたい程、愛おしく感じました。
 
この器、昔我が家にも置いて有り、祭祀の際に使用して居ましたが、管理が難しく、いつの間にかステンレスに取って代わられました。
 
 
固有語で놋그릇ノックルッと言います。
今回はこれにちなみ、この놋그릇ノックルッ유기鍮器ユギ(ちゅうき)について見ましょう。
 
現在では扱い易いステンレスに殆ど代わられてしまいましたが、伝統的な器として朝鮮では近世以来、多大な人気を得て来ました。
 
 
鍮器ユギ(ちゅうき)とは銅と錫の合金です。
「黄銅」とも言います。
 
亜鉛合金の「真鍮」やニッケル合金の「白銅」をも指す場合が有ります。
銅を含む金属なので、青銅器時代から存在しました。
 
朝鮮半島では、この「ノックルッ鍮器」で高級食器を作って来ました。
8世紀新羅時代から鍮器を作る国の専門機関で有る『鐵鍮典チョルユジョン』が有り、鍮器を生産して居ました。
 
 
高麗時代から 陶器技術が発展し、支配階級の器が青磁、白磁などに変わるにつれ、相対的にシェアが低下しました。
朝鮮王朝時代には明・清から金銀を朝貢品として要求される事が多く、それを嫌った政府は鉱山の開発を禁じ、極力生産を抑制したので、あらゆる金属が貴重品だったのです。
 
しかし、朝貢要求が一服した朝鮮後期になり、鉱業の発達により、原材料の供給が容易になり、18世紀に至って人気を博す様になりました。
 
<朝鮮王朝時代の鍮器>
 
当時、リャンバン士大夫たちは京畿道アンソン安城ノックルッ鍮器を受注生産する様になり、安城は一大生産地として有名になりました。
 
アンソン安城で製作されたノックルッ鍮器は他所で作られたそれより格段に優れており、この事から現在「最適」を意味する「アンソン안성マッチュム맞춤」と言う言葉が生まれました。
 
<鍮器 生産現場>
 
鍮器場も漢陽(ソウル)より何倍もの大きさの規模だったと伝えられて居ます。
その他にも定州、金泉、咸陽、順天などが生産地として有名だった様です。
 
 
この様に、ノックルッ鍮器は伝統的に好まれ、良く使用されて居た食器でしたが、日帝期の金属供出で多くが消え、60年代以降ステンレスなどの新しい材料の導入により使用が減りました。
 
実際、ノックルッ鍮器の弱点として、伝統的な製法で作ったノックルッ鍮器は、表面に酸化(錆サビ)が起こり易いのが最大の欠点で、輝きを維持する為には多くの労力が必要です。
 
<鍮器工房>
 
空気の接触を遮断しないと直ぐに錆びますので、とにかく日常の食器としては手間が掛かる材質なのです。
器の輝きを維持する為に多くの労力を要求するノックルッ鍮器は、忙しく手間ヒマを極力抑えたい現代社会には合わない面が有ります。
 
 
20カ所を超えていたアンソン安城ノックルッ鍮器工房も、現在ではキム・スヨン鍮器工房が運営する工房が唯一だそうです。
 
この様に無駄に見えるノックルッ鍮器ですが、多くの利点が有ります。
 
<ドラマ チャングムの誓い>
 
まず、❶ノックルッ鍮器には抗菌機能が有り、食中毒の防止などに役立ちます。
❷次に微量のミネラル放出が有り、健康に役立ちます。
❸そして、他の器よりも冷めにくいと言う利点が有ります。
研究結果によると他のステンレス製器などは直ぐに冷えてしまいましたが、それらに比べノックルッ鍮器は中々冷えなかったそうです。
 
 
❹そしてノックルッ鍮器の特性としては使用すればするほど輝きを増し、何よりも気品の有る輝きを発します。
 
私たち夫婦がコリアンタウンで体験した様に、ズッシリと重みが有り、微かな輝きを湛えたノックルッ鍮器は、見るからに美しく、料理の美味しさを際立たさせてくれます。
 
 
我が国の伝統食器で有るノックルッ鍮器。
今後も伝統文化として長く守って行って欲しいと思います。
 
 
<参考文献>
한국민족문화대사전
나무위키 
 
 
<ドラマ チャンヨンシル>