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平成12年の11月24日に「ストーカー規制法」という法律が施行されています。
ストーカー規制法は、被害者を援助し、守るための法律です。
ストーカー規制法によって規制できるのは
「つきまとい行為」&「ストーカー行為」の2種類の行為です。
つきまとい行為には、待ち伏せや押しかけ、「監視している」などと告げることや、面会を強要することなども含まれます。
その他、無言電話や乱暴な言動、汚物などを送りつけるなどの被害は全てつきまとい行為として、ストーカー規制法の適用範囲となるようです。
ここで言う「ストーカー行為」というのは、上記のつきまとい行為などを「繰り返して」行うことを指します。
ストーカーは、加害者の精神状態が正常でない場合が多いのですが、それと同時に被害者の精神をも脅かします。
被害を受けた事が原因でノイローゼになったり、
「PTSD」を引き起こしたりする場合もあります。
PTSDとは「心的外傷後ストレス障害」とも呼ばれるもので、
命に関わる危機的な状況を経験することで、それがトラウマとなっていつまでも意識に残り、様々な精神不安を引き起こす病気のことです。
ストーカー被害によるダメージ
実際のストーカー被害は、頭で考えているよりも、恐怖感が大きく、
精神的にも相当なダメージが与えられます。
被害者は「また電話があるのではないか」、「玄関の前に立っているかもしれない」、
「ベランダに隠れているかも」といった不安が、常に頭から離れなくなります。
姿を見せないストーカーの場合でも、その見えない正体が誰で、いつ目の前に現れるか分らない..といった不安も大きいでしょう。
どうすればストーカーから解放されるのか、何故こんなに怖くて辛い思いをしなくてはならないのか、様々な思考が頭を駆け巡ります。
恐怖感から夜になっても眠れず、その状態が続くことで不眠症を患う場合もあります。
また、ストーカー被害から開放された後も、その恐怖感が心の傷となり、トラウマ化します。
もうストーカーには追われていないから大丈夫と頭では分っていても、反射的に思い出してしまい、被害に遭った時と同じような状況に置かれたりすると、パニックを起こしてしまうようなことも稀ではありません。
そうした状況が続くことで、心の病気を引き起こしてしまうことも充分にあり得ます。
ストーカー行為は、体験したことのない人には計り知れないほどの大きな心の傷が残るのです。
世間のイメージよりも精神的ダメージははるかに大きく、長期間に及ぶのです。
「PTSD(心的外傷後ストレス障害)」という病気をご存知でしょうか。
PTSDの明確な定義は、まず自らの命を脅かすような危機的状況を経験していることが挙げられます。
そしてその危機的状況に似た場面や条件に遭遇した時にフラッシュバックを起こすようになること、さらには不眠や集中困難、過剰な驚愕反応などが見られることなどとしています。
ストーカー被害を長期的に受けた場合に陥りやすいのが「複雑性PTSD」です。
「命に関わる危機的体験」をしていなくても、精神的に大きな苦痛を伴う出来事を、
長期間に渡り繰り返し経験することによってPTSDを発症するとされています。
このように、ひとつひとつの出来事は命への危険を伴わないが、
長期的に身体的、心理的危害を加えられたことで起こるPTSDを、
「複雑性PTSD」と呼んでいます
ストーカーの被害による精神的被害には、まさにこの複雑性PTSDの定義があてはまると言えるでしょう。
ストーカー被害者が、事件解決後もなおストーカーからの恐怖に怯えるのは、
この複雑性PTSDが関連しています。
脅迫電話や立て続けの無言電話などの被害にあったことが原因で、電話が鳴ると「ストーカーからかもしれない」と恐怖でパニックを起こすケースはとても多いようです。
また、自分の体験と似たストーカーの話を見聞きするだけでフラッシュバックを起こし、精神的に錯乱状態に陥る場合もあります。
ストーカーの被害が収まった後でも、長期的にPTSDからくるフラッシュバックに悩まされます。
他にも、身体的症状が強く出たり、感情や感受性に乏しくなったり、孤独感を感じやすくなったりと、様々な症状が被害者を長期的に苦しめる事になるのです。
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*参照:PTSDに効果「持続エクスポージャー療法」(PEの4本柱)
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ストーカーの心の闇
なぜ、「好意」から「ストーカー行為」に発展してしまうのでしょうか。
一般的で健全な愛情には、「好きな人には、幸せであって欲しい」
「好きな人が喜ぶ顔が見たい」というように、思いやる心が自然と芽生えます。
それなのに、ストーカーは全く正反対です。
ストーカー行為にあてはまる全てのことが、自分と相手をどんどん遠ざけ、
関わりを持てなくなる結果に繋がっています。
それに気付かないのが、ストーカー加害者なのです。
好きな人に振り向いてもらえないという行き場のない欲求、
まだ想いを寄せているのに別れなければならない不満。
普通の愛情表現で満たされなかった欲求を、自分自身で解決したり、
処理することができなくなっているのです。
欲求の暴走が止まらないと、相手の感じていること、また相手の自分への気持ちも全く興味がなくなります。
「自分はあなたのことが好きだ」という、ただそれだけの感情が自立するため、
相手の心の中に入り込めればそれで満足してしまうのです。
たとえ相手に嫌われようと、常識ではあり得ない行為に走ろうとも、
意中の相手の心から自分の存在がなくならなければ良いという状態です。
簡単にストーカー行為の心理を説明しましたが、歪んだ愛情を持ってしまうには必ず原因があるはずです。ただの「わがまま」で片付けて良いかと言えば、そうではないのです。
彼らの異常行動は、非日常的です。
正常な精神状態でないとすれば、何らかの精神疾患やトラウマを抱えている可能性は
充分にあります。
愛情の反対は「無関心」とよく言いますね。彼らは、自分のことを見て欲しいのです。
加害者の「被害者意識」
多くのストーカー加害者に共通して言えることは、「加害者意識が希薄である」ということ。
どんなに被害者の心理状態を追い詰め、苦しめていたとしても、加害者側はそれを認識していない場合が多いようです。
カウンセラーなどを通じて、被害者がどれほど苦しんでいるか、迷惑しているかを間接的に
伝えると「意外だ」と感じる人が多いのです。
ひどい場合には、多少喜んだ表情まで見せる事があるといいます。
ストーカー犯罪の加害者は、自分を加害者だと認識する以前に、
真逆の「被害者側」の立場だと感じていることが多いようです。
「捨てられた」「振り向いてももらえない」と、見捨てられた被害者だと思っているのです。
被害者意識は、自分が違法行為によって相手を苦しめはじめても、簡単に切り替えられる
ものではないようです。
相手の心に入り込もうとすることで、頭がいっぱいなのですね。
ですから、当事者同士の話し合いなどで簡単に解決できることではないのです。
場合によっては、被害者と加害者による直談判は危険を招く恐れもあります。
またストーカー加害者は、非常に依存性の高い人格を持っていると言えます。
被害者(元パートナー)がいないと生きていけない、他のことは何も考えられないと
完全に信じきっています。
自己愛の強さや依存性の強さは、交際中などに相手に悟られている場合が多いと言えます。
それが破局の原因になり、ストーカー行為を導いていると言っても過言ではありません。
自分自身で、全てを空回りさせてしまっているのです。
ストーカーと人格障害
ストーカー加害者の心理状態には、人格障害が関わっていると考えられます。
簡単に言うと、人格障害とは、その人の持つ「人格」が常道から外れてしまい、
社会生活に支障をきたすことを言います。
思春期や青年期、成人期早期から始まることが多く、その人格は長年に渡って定着しているため、大きな苦痛を伴います。
慢性的に精神が病的な状態にあるのですが、
精神病的な「幻覚」「妄想」などの重い症状は見られません。
精神病と診断するには条件が足りないけれど、明らかに普通とは言えない精神状態です。
育った環境や過去のトラウマや体験からくるものですので、その人の中に異常な人格が
しみ付いてしまったものであると言えます。
この人格障害と、ストーカー行為に走る心理状態は深く関連してきます。
実際に、ストーカー加害者と接する心理セラピストも、加害者の人格障害を指摘しています。
人格障害はひとつにくくられるものではなく、様々な傾向がみられるため、それぞれの特徴と名称が定められています。
その中でも、「反社会性人格障害」「自己愛性人格障害」などが、ストーカー加害者が抱えている可能性の高い人格障害だと言えます。
長年に渡ってその常道でない人格が安定してしまっているので、完全な回復は非常に困難ですし、時間は相当かかると思います。
ストーカー被害者から相談を受けるカウンセラーなども、
加害者の心のケアを行っています。
対人関係が非常に不安定で激しいというのも人格障害にあてはまる特徴と言えるので、
心理学の専門家との接触が望ましいでしょう。
自己愛性人格障害との関連
自己愛性人格障害の特徴は、ストーカー行為と関連していると考えられます。
ストーカーは、思い切り単純に考えれば「自己中心的思考の塊」です。
相手の感情や自分への批判を省みずに欲求を満たそうと強要するものです。
自己愛性人格障害は、大きく2つのパターンに分かれるのですが、
その2つには大きく差が出ます。
まずひとつは、「過剰警戒タイプ」と名の付く、ストーカーとは真逆のタイプになります。
簡単に心が傷つきやすい、他人の自分への印象や批判に敏感、引っ込み思案、目立たない努力をするなどが特徴に挙げられます。
過剰警戒タイプは、両親からの愛情を充分に受けられずに育った場合、正常な自尊心が
保てずに歪んでしまうことが原因として挙げられます。
もうひとつは、ストーカー行為と結びつきやすいタイプで日本人に多いとされています。
「無自覚タイプ」と名付けられるもので、多くは母親の過保護などが原因となる場合が多いようです。
他人の反応に鈍感、放漫で攻撃的、他人に傷つけられる感情を受け付けない、
自己陶酔し易いなどが特徴とされます。
無自覚タイプの自己愛性人格障害は、ストーカーの特徴にぴったりと一致する部分が多くあることがおわかり頂けると思います。
自分が意中の相手にしつこくしたり、何かを強要したりしてしまうとします。
そこで相手に嫌われ、「嫌いだ、会いたくない、来ないでくれ」と言われたとしても、
傷つくという感覚を忘れています。
攻撃的な人格を持つことで、ストーカー行為がエスカレートする原因ともなるでしょうし、
自分を誇示しすぎるのです。
また、原因となる「母親の過保護」ですが、
過保護は虐待の一種とされています。
子供の主張や意見を無視し、母親の感覚や思想を全て子育てに投影します。
母親と子供の中に、自立というものが存在せず、母親は子供のことを「自分の所有物」として扱っているともいわれます。
手塩にかけて育てられた、愛されていると誤解されがちですが、決して良い環境とは言い難いのです。
反社会性人格障害との関連
ストーカーと関連付けられる人格障害として、「反社会的人格障害」もそのひとつと言えます。
反社会性人格障害の特徴は、ストーカーに限らず、あらゆる犯罪を引き起こしかねないという点です。
ここでは、「ストーカー行為の要因」とした見方で、反社会的人格障害についてまとめてみます。
反社会的人格障害の特徴として一番大きいのは、良心の呵責に欠けているという点です。
違法行為や犯罪行為を、動揺することなく冷静に行ってしまいます。
ストーカーの加害者が、自分がとんでもない罪を犯しているということに気付かない特徴からも、関係性が読み取れると思います。
罪悪感などを感じずに、自分の心の赴くままに行動してしまいます。
また、相手の心理を読み取って、操作する能力に長けています。
ストーカー行為にあてはめて考えてみるとどうでしょう。
意中の相手に振り向いてもらえない、または振られてしまったというショックな
出来事に遭遇したとます。
そこから、どうすれば相手の心に自分を投じられるかを考えるのです。
その結果が、ストーカー行為です。
被害者は苦しんでいるけれど(苦しんでいることに気付かない場合も多い)、
その代わりに被害者は自分のこと考えている(実際には怯えているだけ)時間が長くなると
考えます。
憎まれても、恐れられてもいいから、自分の存在を絶対に忘れさせないような手段をとるのです。
実際に被害に悩んでいる最中は、ストーカーの存在から開放されることはなく、
常に頭から離れなくなります。
何をしているときでも、ストーカーへの不安が消えることはないので、加害者側としては
思う壺というわけなのです。
こうして、「相手が可哀想」だとか「悪いことをしている」という現実が見えていないために、
エスカレートした行動にも容易に出られるのです。
全ての加害者がこの反社会性人格障害だと決定付けることはできませんが、
人格障害の要素は充分に持ち合わせていますし、あてはまるパターンは非常に多いとされています。
参照:パーソナリティ障害
参照:PTSDに効果「持続エクスポージャー療法」(PEの4本柱)