週刊ベースボールONLINE

高校野球リポート

【高校野球】市ケ尾が「大谷グラブ」で合同練習 参加者全員50人の小学生が「楽しかった!!」

 

夢のような贈り物を有効活用


ドジャース・大谷翔平が全国の小学校に寄贈したグラブ。右利き用2つ、左利き用1つである[写真=BBM]


 スーパースター・大谷翔平(ドジャース)からの夢のような贈り物。せっかく手元に届いても、有効活用しなければ意味がない。

 市ケ尾高(神奈川)の硬式野球部(選手35人、女子マネジャー5人)が2月21日、近隣の横浜市立鉄小学校の学童保育(鉄小学校放課後キッズクラブ)を訪問。同クラブ主催のイベントである「市ケ尾高校野球部のみなさんと大谷翔平選手寄贈のグローブで野球をしよう」の合同練習を実施した。

 小学1〜6年生の子どもたち50人が参加。あいにくの雨天となったが、体育館で約1時間、キャッチボール、ストラックアウト、ミニゲーム(ティーボール)を楽しんだ。

 子どもたちが競い合うように手に持っていたのは「大谷グラブ」。ドジャース・大谷は昨年11月、日本全国の約2万校の小学校に、6万個のジュニアグラブを各校3個(右利き用2個、左利き用1個)の寄贈を明らかにした。12月から今年3月ごろをメドに順次発送され、鉄小学校には2月8日に届き、朝会で全校児童に披露された。玉置恭美校長は言う。

「封も開けていなかったんです。その場で広げると、児童たちからは『オーッ!!』と歓声が沸き上がりました。大谷選手からの『野球をしようぜ』という手紙を読み上げました。全員が触れられるように1日1クラスで回していきました(小学3年が2クラスある以外、5学年は1クラス)。ただ、プレゼントしていただいたグラブを、どう活用するかが課題でした。市ケ尾高校さんからお話をいただき、すごく良い機会をいただき、感謝しています」

 一般的な「野球教室」ではない。野球未経験者にも、白球に触れ合ってもらう「契機の場」だ。安心・安全に遊ぶためには、しっかりとした指導者がいなければ、心の底からエンジョイすることはできない。ルールを知らなければ「遊び」も、統率が取れないのである。

 市ケ尾高・菅澤悠監督は今イベント「キャッチボールプロジェクト」の意図を明かす。

「小学校では、野球を指導できる教員が少ないのが実情です。野球に興味を持ってほしいと願う大谷選手の思いを実現させる意味でも、高校生が野球の基本である『キャッチボールの魅力』に触れるきっかけをつくらせていただきました。一人でも多くの子どもたちがボールを投げる、捕球する、そして打つという喜びを味わってほしい。そして、明日以降はこの大谷グラブを使って、校庭で思う存分、キャッチボールをしてほしいと思います」

今後も実施予定


鉄小学校放課後キッズクラブは近隣の市ケ尾高校野球部から指導を受け、充実の1時間を過ごした[写真=BBM]


 イベント冒頭で、菅澤監督が「このグラブを使ってキャッチボールをしたことがある子はいる?」と問いかけても、誰も手を挙げなかった。これが、現実だった。ミニゲームで打った児童が三塁方向へ走り出すのも、当たり前のようにいる。一塁へ駆け出すという基本的なことも知らない。これこそ、野球の危機。いかに普及していないか、象徴的なシーンだった。菅澤監督は「(地上波で)野球中継がないのが最大の理由ではないでしょうか。昨年のWBCで野球を見る機会も増えたと聞きます。今回のイベントで、さらに触れるきっかけになってくれればいいです」と語った。

 鉄小学校放課後キッズクラブの主任・藤田菜穂子さんは何度も感謝を口にしていた。

「学校からキッズクラブに大谷選手からのグラブを貸していただけること自体、あり得ないこと。学校の協力なくして、実現できませんでした。ウチのキッズクラブは運営主体(特定非営利活動法人 くろがね子ども地域ネットワーク)が地域の人たちが中心ですので、学校も『地域』の活動として温かい目で見ていただける。本当にありがたいです」

 WBC世界一で、教育現場は、野球熱の再燃を実感している。藤田さんは続ける。

「大谷選手が活躍したWBCの影響で、昨年来、野球をやろうとする子どもがグンと増えています。キッズクラブは全体で70人いますが、サッカーよりも、野球に触れる子が多い日もあります。サッカーは体格差の部分で、一緒にプレーすると、危ない部分もありますが、野球はその心配があまりない。今後は野球、サッカー、バスケットボール、ドッジボールで、スペースを区切ってきたい。高校生が一生懸命で、ありがたい企画で、子どもたちが喜んでいる姿が見られて良かったです」

 参加した児童は「めちゃくちゃ、楽しかった。(ストラックアウトで)当てるのが難しかった。大谷さんのグラブは触り心地が良くて、すごく軽かった」と元気いっぱいだった。

 市ケ尾高では今後も、近隣の4〜5の小学校で「キャッチボールプロジェクト」を実施予定だ。今回は学童保育が対象も、学校の体育の授業(40分)に出向くケースもある。

「学校長の最大の理解があり(野球部の生徒は)公欠扱いにしてくれます。私が小学校に電話し、協力していただける学校長であれば、実現できる。もっともっと、広めていきたいです」(菅澤監督)

 菅澤監督の言葉は、さらに熱気を帯びる。

「小学生は難しいですね……。話を聞いてくれない(苦笑)。でもウチの子どもたちは、うまく盛り上げていました。次回以降は3月に入ってから。(春の)大会に向けて練習することも大事ですが、こうした取り組みも大事にしていきたいと思っています」

 部活動の意義とは、相手との試合に勝つ、スポーツを通じた人間形成、チー力養成、個々の技術向上だけではない。未来へとつなぐ「普及・振興」も重要な役割であることを、市ケ尾高校野球部は1時間で体現してみせた。

 菅澤監督はイベントの最後に「今日、楽しかった子?」と」聞くと、50人の参加者全員が「ハーイ!」と手を挙げた。大成功だった。

文=岡本朋祐
週刊ベースボール編集部

週刊ベースボール編集部

週刊ベースボール編集部が今注目の選手、出来事をお届け

関連情報

みんなのコメント

  • 新着順
  • いいね順

新着 野球コラム

アクセス数ランキング

注目数ランキング