コグニティブディストーション(認知歪み)と認知行動療法(CBT)
認知歪み(Cognitive Distortions)は、簡単に言うと「不合理な認知」という意味です。このような認知や思考は、程度に差はありますが、どんな人でも持っています。
認知歪みという用語は、認知行動療法(CBT)の考案者アーロン・ベックによって提唱され、少し専門的に言うと、「非論理的な情報処理バイアス」となります。
認知歪みの程度や頻度が極端になると、思考パターンがプライベートや仕事などに影響を与え、自尊心・自己評価の低下、不安、メンタルヘルスの問題に関連する可能性があります。
少し分かりにくいかもしれませんので、様々な認知歪みのパターンをご覧いただきながら、理解を深めていきましょう。
認知歪みの種類
認知歪みには様々な種類があり、それらについて理解することは、自分の認知や思考・感情をより良いものにシフトさせるための第一歩となります。
偏った認知は時折、否定的な思考パターンを生み出し、自分自身や周囲にとって有害な信念に発展する可能性があります。
二極化思考
白黒思考、全か無か思考とも呼ばれ、物事を絶対的または極端に認知する傾向です。二極化思考は、状況の認識を困難にし、自分や他人に影響を与える可能性があります。
二極化思考の例
「このプロジェクトは難しすぎて、私には絶対にできない」
「私はその職業に就けなかったので、完璧に負け組だ」
「私の誕生日を忘るなんて信じられない、彼は私のことを全く気にしてないんだ」
認知行動療法(CBT)では、
二極化思考の中間やグレーゾーンを考慮するために、思考のリフレーミングを奨励しています。
上記の最初の例へのリフレームは、「このプロジェクトは難しいかもしれないが、取り組むうちに達成できる」などです。
過剰一般化
過剰一般化とは、実際には限られた物事なのに、世の中全体を現しているように一般化して誤認を引き起こす現象をいい、「小さな物事を極端に大きく解釈する思考」とも言うことができます。
過剰一般化が頻繁に起こると、「あらゆる状況や、人には違いがある」という考えを認知することが困難となり、あわせて他者の誤認を誘発し、人間関係にも大きな影響を与えます。
自分自身の中に過剰一般化の思考を見つける方法は、「いつも」「絶対」「決して」「すべて」というようなセルフトーク(自己対話)が頻繁に頭の中に浮かぶかをチェックをする方法があります。
過剰一般化の例
「この間のデートで大失敗した、デートなんか面白くないから、私は死ぬまで絶対に恋愛をしない」
「コンサートに行ったことがあるけど、すごく退屈だった、、だから、クラッシック音楽自体がつまらない」
認知行動療法(CBT)では、
自分自身と周囲についてのより良い関連性を学ぶために、状況に対して個別のアプローチをおこなうことを奨励しています。
例えばセラピストは、メタファー(比喩)などを使って、「1回のデートによって、それが恋愛をしないことにつながるわけではない」ということを再認識させ、デート体験の再評価を促すようにアプローチします。
破局的思考
破局的思考は、あらゆる状況の最悪の結果だけを見るような思考を意味します。
この思考は、「未来を強く心配する感情」の影響により、現在の状況が非常に困難なものになる可能性があります。
破局的思考に苦労している人の仮定する困難は、通常、非常に限られたデータや証拠に基づいています。
破局的思考の例
「きっと、その場の誰もが私を変だと思う。だからパーティーには行かない」
「喉が痛い、私は癌かもしれない」
「今の乱気流!きっとこの飛行機は墜落する!」
認知行動療法(CBT)では、
破局的思考の「実際の可能性」について考え、より肯定的な可能性を考慮することを奨励します。
飛行機の例の場合、「アメリカ国家安全保障会議のデータによると、飛行機で死亡する確率は、約20万5552分の1で、0.00048%しかないので、乱気流があったからといって特に心配することはないよ」と伝えてあげると良いかもしれません。
パーソナライゼーション
パーソナライゼーションとは、自分がコントロールしている物事、していない物事にまで責任を感じるという信念のことです。(ビジネスにも同じ用語がありますので注意)
実際に当人が関与した物事をパーソナライゼーションしている場合、リフレーミングが難しいことがあります。
パーソナライゼーションの例
「私の母はいつもイライラしている。私がもっと優秀だったら、母はイライラしないはず」
「うちのチームは、私のせいでサッカーの試合に負けたんだ」
認知行動療法(CBT)では、
自分以外に物事に関与している要因を考慮することを奨励します。
例えば、「お母さんは仕事が忙しくて疲れていたというのも1つの要素です。その他に要素があるとすれば?」と考慮していきます。
メンタルフィルタリング(注意バイアス)
メンタルフィルタリングは、状況の否定的な側面のみに焦点を当て、情報をフィルタリングすることを言います。
メンタルフィルタリングの、「上げて落とす」ような思考により、状況の認識を困難にし、間違いや失敗を固執する可能性があります。
メンタルフィルタリングの例
「私のダンス動画が、XやInstagramで絶賛されてバズった!でも、その場のお客さんは気にくわない顔をしてた」
「私は忘年会で同僚と楽しい時間を過ごしましたが、A子さんは私に挨拶もしませんでした、私は家にいるべきだった」
認知行動療法(CBT)では、
最終的にすべてを否定的に見るのではなく、うまくいったことに焦点を当てるように伝えます。
例えば、A子さんが挨拶をしなかったことに動揺するのではなく、忘年会を楽しめたことを喜ぶようにするなどです。
ポジティブの割引き
ポジティブの割引きは、発生したポジティブな物事を無視することを意味します。
状況の良い側面を、何らかの理由でカウントしなかったり、ポジティブなものを軽視すると、自尊心・自己評価が低下します。
ポジティブの割引きの例
「これが正しいことだと知ったのだけれど、おそらくこれは思い違いのはず」
「仕事の評価が上がったなんて信じられない、きっと評価を間違えたんだ」
認知行動療法(CBT)では、
状況を適正に判断するには、推測ではなく、実際のデータを確認することによって考えがリフレーミングされると考えます。また、ネガティブな構成要素だけでなく、全体像を理解することが重要です。
例えば、「仕事の評価が上がったのは、自分にそのポジションの適正があったためと評価書には記載がある、もしかしたら評価ミスかもしれないが、そこに関しては証拠がないので前者の可能性が有力だ」と考えることができます。
結論に飛びつく思考
結論に飛びつく思考は、データがほとんど、または、まったくない何かについて推測をする時に起こります。これには、「うまくいかない」「ひどくなる」と仮定する思考も含まれています。
結論に飛びつく思考の例は、十分なデータなしに、「あの人は特定の考えを持っている」と仮定する「マインドリーディング」です。
結論に飛びつく思考の例
「彼女は私を見て嬉しそうじゃなかったので、間違いなく私を嫌っている」
「医者がカルテを見ている時に変な顔をしたので、きっと私は重病だ」
認知行動療法(CBT)では、
このような認知歪みは、「相手に直接尋ねない限り、他者が何を考えているかを知ることはできない」ということを思い出させてリフレーミングをします。
例えば、「彼女は、その日あまり良くないことがあって、たまたま嬉しそうでない顔をしていた」という考察ができます。
「すべき」ステートメント
「すべき」という発言は、何か特定の物事が「こうあるべきだ」という信念に由来します。
「すべき」ステートメントに悩まされると、思考がフリーズし、有益な情報や視点などを考慮することができなくなります。
また、「すべき」ステートメントは、欲求不満、罪悪感、心因的ストレスを生み出す可能性があります。
「すべき」ステートメントの例
「私は、あの時に結婚すべきだった」
「これについてそんなに怖がるべきではない」
認知行動療法(CBT)では、
「自分自身に対して厳しい要求を課している理由」を探求することを奨励します。
たとえその要求の理由が合理的であっても、行動を起こす動機が「すべき」ステートメントである場合、真意を追求することが重要です。
感情的な推論
感情的な推論は、データでは反対を示しているにもかかわらず、特定の感情を「真実である」と仮定することです。
当人は感情に巻き込まれているため、現実的なデータよりも、仮定や想定に強いリアリティを持つ可能性があります。それは特に否定的な感情の場合、不和が生じます。
感情的な推論の例
「私は自分で悪い妹だと思う。だから私は悪い妹だ」
「マサオは、10分前に家に到着してるはずなのにまだ帰ってない。きっと何か恐ろしいことがあったに違いない」
認知行動療法(CBT)では、
状況の事実を確認することで感情的な推論をリフレーミングします。感情的な推論は事実ではありません。
例えば、「マサオは渋滞に巻き込まれるかもしれないので、何か恐ろしいことが起こったということは証明できませんし、そもそも推論をするよりも、マサオにメールをしてから読書をしよう」などがあります。
ラベリング
ラベリングとは、ひとつの特徴を対象者の全体に一般化することを意味します。これは、「人は変化することができない」という信念に関連しています。
ラベリングの例
「彼は前回の仕事でうまくいかなかったみたいなので、営業が苦手なタイプでしょう」
「彼女をデートに誘ったら断られた。だから私は負け犬だ」
ラベリングは、自分や相手をより良く理解する上で、認知の柔軟性を損ない、人間関係に悪影響を及ぼす可能性があります。特に、否定的なラベリングには注意が必要です。
認知行動療法(CBT)では、
物事がうまくいかなかった後に、自分や相手をいじめるようなラベリングをする代わりに、「次回はもっとうまくやる」ためのモチベーションとしてのラベリングを奨励します。
例えば、「彼女をデートに誘って断られた。もう一度誘ってみるか、もっと素敵な人があらわれる可能性もあるな」などがあります。
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