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約5000人に1人発症する「小耳症」。自分の軟骨から耳を作る耳介形成手術とは?【専門医】

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生まれつき耳が小さかったり、耳の形が丸まっていたり、耳の穴がふさがっていたり・・・、このような症状を「小耳症」と言います。聴力も形も人によって違いますが、10才を過ぎると耳を作る手術が可能なのだそうです。日本でトップクラスの耳介(じかい)形成技術を持つ、札幌医科大学附属病院 形成外科の四ッ柳高敏先生に、小耳症について聞きました。
(上の写真は左が手術前の小耳症の様子、右が手術後3年経過した耳の様子です)

遺伝性ではない先天性形成不全。発症の原因は不明

――小耳症について、どのような症状か教えてください。

四ッ柳先生(以下敬称略) 小耳症は5000〜6000人に1人に発症するといわれる耳(耳介:耳の表面に見える部分)の形の先天性形成不全です。耳が丸く縮まった形になっていたり、耳の穴がふさがっていたり、耳の軟骨部分がなく耳たぶのみなど、形に差があります。女性より男性に多く、左耳より右耳が多く、片耳に発症する傾向が多くなっています。なぜこのような傾向があるか、原因はわかっていません。

一部の方ではきょうだいや親子での発症が見られるものの、基本的には遺伝性はありません。サリドマイドなど一部の薬剤が影響する可能性がいわれていますが、その他の薬剤や疾患、高齢出産や喫煙などの関与は認められておらず、原因は不明です。

小耳症は第一第二鰓弓(さいきゅう)症候群の症状のひとつとして生じることが多く、その種類や程度は人によって異なります。第一第二鰓弓症候群は、胎児のときに下あごや耳、口などの骨や筋肉になるもとの部分で何らかの異常が発生し、顔面の形態や機能にさまざまな異常を生じる生まれつきの疾患で、多くの場合は片側に起こるので顔が非対称になります。小耳症に代表される耳の変形・聴力障害のほか、下あご・顔面骨の成長障害、顔面神経麻痺、口角が割れて広がった巨口症などがあります。
症状は出生時からあるものであり、出生時になかった症状が後日出てくるようなものではありません。

――出生前に、超音波検査などでわかることはあるのでしょうか?

四ッ柳 超音波検査は口唇裂(こうしんれつ)などの発見には有効ですが、耳は胎児の姿勢によって正常でもつぶれて見えたりするので判断が難しいと思います。わかる可能性はありますが、発症率の低い小耳症まで十分に確認されることは少なく、これまで出生前に小耳症の診断がついて連絡をもらったことはありません。

小耳症の子はどのくらい聴こえるの?

――小耳症で生まれた赤ちゃんは、聴力はどのくらいあるのでしょうか?

四ッ柳 小耳症では外耳道閉鎖といって耳の穴が開いていない状態、または外耳道狭窄(きょうさく)といって耳の穴が細い状態になっています。外耳道閉鎖では、外耳道(耳の穴)は軟部組織と骨で埋まってしまっていて鼓膜もありません。外耳道狭窄は鼓膜はあっても小さいため、音を深部に伝える効果が少なくなっています。外耳道閉鎖も外耳道狭窄も、中耳はありますが、狭く、耳小骨(じしょうこつ)という音を耳の奥の神経に伝えるための骨が変形や欠損していることが多いため、聴力の低下がみられます。また、小耳症であっても内耳の機能は維持されていることが多いので、三半規管も正常で平衡感覚などは問題がありません。

正常の耳の聴力は0~20dB(デシベル)ですが、外耳道閉鎖では70dB以上(太鼓の大きな音などが聞こえる)、外耳道狭窄では50dB以上くらい(大きな声で話せばある程度聞こえる)であることが多く、まったく聞こえていないわけではありません。
片耳小耳症は日常生活にはあまり支障はなく、言語発達や学習能力への影響はありませんが、小耳症がある耳のほうから呼びかけられたときや、後ろを車が通ったときなど、方向の判断がつかないことがあります。
両耳小耳症の場合は、大きな声で話せば聞こえますが、言語発達や学習能力の遅れにつながる場合もあるため耳鼻科医と相談し、骨導補聴器を利用して早くから音を入れてあげることが重要です。
外耳道を形成して聴力の改善を図る手術を行っている耳鼻科医もいますが、効果が出ないことが多く、合併症も多いことから、現在は積極的には行われなくなっています。しかし代わりに補聴器の発達は著しく、種々のものが扱われるようになっています。また人工中耳の手術も行われるようになってきました。

肋骨(ろっこつ)と胸骨をつなぐ軟骨を使用して耳の形を作る手術

写真は右耳の耳垂(じすい)残存型小耳症の手術前から手術後にかけての様子と、手術から3年後の左耳との比較

――耳を作る手術はどのように行うのでしょうか?

四ッ柳 耳の手術を受ける子ども自身の肋軟骨(ろくなんこつ)を使って耳の形を作る手術を行っています。肋軟骨とは肋骨と胸骨を結合する軟骨です。手術は基本的には2回行います。1回目は肋軟骨移植術、2回目は耳介挙上術(きょじょうじゅつ)というものです。

1回目の肋軟骨移植術は、胸の右側の第6〜8軟骨を採取して、彫刻刀で削ったり組み合わせたりして耳介の形の軟骨フレームを作ります。耳介を作る位置の皮膚を切開し、その軟骨フレームを埋め込みます。もともとある小さな耳は、位置を動かして耳たぶとして利用します。この手術を、軟骨を採取する2名と耳を作る2名の4名チームで、3時間半〜4時間で行います。
通常の耳は頭から起き上がっていますが、この手術の時点では、耳は頭にぴたりとはりついている感じです。

そのため、2回目の手術では耳介挙上術といって耳を持ち上げる手術を行います。耳介のまわりを切開して耳を持ち上げ、下腹部から採取した皮膚を、持ち上げた耳介の後ろの部分に移植します。
1回目と2回目の手術は半年以上間隔を開けて行い、ともに全身麻酔となります。

手術のための入院期間は3〜4週間で、2〜3カ月かけて徐々に傷と赤みがひいてきます。何十年という経過で見ると、やや厚さが減ったりするなどこまかな変化はありますが、ほとんど作ったままの状態で一生維持されます。軽いけがなどをしても、一般的な処置で治ります。

――手術は何才くらいに行うことが多いですか?

四ッ柳 この移植手術は、体格、軟骨の量や成熟度などの点から本来は中学生〜高校生位で行うのがベストですが、学校の影響を考慮して、小学校5年生以降に行っています。これより小さい年齢での手術は軟骨量がたりないだけでなく、手術後に軟骨が変形したり、吸収されたりしてしまい耳の形を維持することができません。同様に本人(または一卵性双生児)以外の軟骨も、移植後2〜3年経過すると、徐々に吸収されてほとんどなくなってしまいます。そのため、親の軟骨を移植することはできません。

――手術後はどのような痛みがあるのでしょうか。

四ッ柳 この手術でいちばんつらいのは、肋軟骨を採取したあとの痛みなんです。寝返りや、起き上がる時などの痛みが術後3日ほど続きます。ただ、今は麻酔科の医師と協力して、手術中に無痛分娩で行っている硬膜外麻酔(こうまくがいますい)を入れる処置を行っているので、胸の痛みはかなり軽減して、最近ではほとんどの子が手術の翌日から歩いています。術後3日が過ぎると痛みは引いてきて、1週間もすると走っちゃう子もいます。怒ってやめさせますが(笑)

――入院期間が3〜4週間あるのは、耳の状態の経過を見るためですか?

四ッ柳 手術では耳があるところの皮膚の下をはがして、そこに軟骨を埋め込むので、はがした皮膚が軟骨に安定してしっかりとはりつくまでに時間がかかります。入院中は血の巡りが悪くならないように管理をして、感染を起こさないよう、毎日泡立てた石けんで洗浄します。帰宅して術後の皮膚が感染などのトラブルを起こさないよう、皮膚の状態が安定してから退院してもらっています。

――聴力には影響があるのでしょうか?

四ッ柳 形成外科で行うこの手術は耳介を作るもの、つまり見た目を改善する手術なので、小耳症による聴力の低下を改善することはありません。ただ耳にかけるタイプの補聴器が使えるようになるので、聴力が低い場合にはその利用ができるようになります。

手術で「みんなと同じ耳になれた」と喜ぶ子どもたち

――手術を行った子どもたちからどのような感想が届いていますか?

四ッ柳 小耳症の子どもたちは、耳が小さいこと以外はごく普通です。けれど、先天的に耳が小さいことは、本人の心に影響を与えていると感じます。手術を受けた子どもたちからよく聞くのは「やっとみんなと同じになれた」という言葉です。手術してできた耳を見て、子どもたちはうれしそうな笑顔を浮かべてくれます。

2回の手術を受けて退院した子どもから「髪を結んだヘアスタイルができるようになった」「ショートカットにできてうれしい」「いい耳ができてうれしい」「ぼくの耳のお父さんになってくれてありがとう」というメッセージをもらうと、励みになります。おとなしいタイプだったのに、耳ができてからすごく積極的になって突然生徒会長に立候補した、という子もいました。成人した子が耳を出したヘアスタイルの成人式の写真を送ってくれるのもとってもうれしいですね。

取材・文/早川奈緒子、たまひよONLINE編集部

お話・監修・画像提供/四ッ柳高敏先生

耳を自分の軟骨から作ることができる、という事実に驚いた人も多いのではないでしょうか。小耳症の子どもやその親にとって、人と違う耳を持つことを個性として受けとめてもいいのではないかという気持ちの反面、その違いをコンプレックスに思ってしまうこともあるそうです。小耳症の子どもたちが少しでも生きやすくなるために、四ッ柳先生は耳の形と親子の心の両方の治療に懸命に取り組んでいます。

●記事の内容は記事執筆当時の情報であり、現在と異なる場合があります。

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