少子化「対策」を本物の「政策」へ…ハンガリーに学び、原因療法に踏み出せ

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編集委員 伊藤俊行

 政策と対策には、似て非なるところがある。

 中国社会の特徴を表した「上に政策あれば下に対策あり」では、「政策」は政権が強いる悪法、「対策」は国民がしたたかに「抜け道」を探して生きる姿をイメージさせる。

年頭記者会見に臨んだ岸田首相
年頭記者会見に臨んだ岸田首相

 岸田文雄首相が2023年の年頭記者会見で誓った「異次元の少子化対策」には「どうせ、また『対症療法』だろう」と、反応が芳しくない。

 症状は明らかなのに、歴代政権は選挙で歓心を呼ぶ目先の「対策」ばかり並べ、成長段階に応じたタテの支援はぶつ切り、子育て環境の整備などヨコの支援もバラバラだったからだ。いくら「次元の異なる対策」と言い換えても響かない。

 対照的に、23年の通常国会での施政方針演説や答弁で多用された「こども・子育て政策」は、まだ前向きだ。時間がかかっても、社会のありようを見直す意志がにじむからだ。

 少子化対策の語感が後ろ向きだと気付かせてくれたのは、11年に1人の女性が生涯に産む子どもの数の推計値である合計特殊出生率が1.23まで落ちながら、包括政策で1.59(21年)に回復させたハンガリーだ。

家族政策担当相を務めた経歴を持つハンガリーのカタリン・ノバク大統領(中央)=AP
家族政策担当相を務めた経歴を持つハンガリーのカタリン・ノバク大統領(中央)=AP

 日本のメディアも「成功例」と持ち上げ、岸田政権と比べる。ただ、人口1000万人を割った同国が追求したのは「対策」ではなく「家族政策」だった。

 支援は胎児の段階から税控除などを通じて始まる。20年からは4人目を産んだ母親の所得税を免除した。託児所など子育て世帯が働きやすい環境を整え、持ち家の購入まで助ける。

 恩恵が大きいのは「結婚した男女」で、家族政策を進めた10~21年で婚姻数は7万2000件に倍増、嫡出子率は52%から70%になった。家族は「国家存続の基盤」で、基本は「結婚と親子関係」だと憲法に規定した国柄だろうか。

 非嫡出子を同等に扱い、出生率を上げた国もある。未婚や性的少数者(LGBTQ)の子育てをするカップルが手厚い支援からこぼれるのは、不公平だとの意見もある。ハンガリーに学ぶとすれば、少子化の根本原因を探り、タテもヨコも切れ目なく支援する「原因療法」に希望があるという点だろう。

 岸田首相が「対策」より「政策」を強調する理由が、原因療法に踏み出す覚悟の表れなら期待できる。

 発想の転換も注目だ。

 自民党は、民主党政権の時の所得制限のない「子ども手当」と年少扶養控除の廃止に「子育ては社会の役割というイデオロギーの表れであり、子育ては家族が基本で社会は補完と考えるわが党と違う」とかみついた。

 その後、自民、公明両党の主導で児童手当が復活すると、再び所得制限が設けられる一方、年少扶養控除は元に戻らなかった。

自民党の茂木敏充幹事長
自民党の茂木敏充幹事長

 今国会の代表質問で自民党の茂木敏充幹事長が児童手当の所得制限撤廃を唱えたことに、民主党系議員の評価と批判が交錯したのは無理もない。だが、「必要な政策は常に見直す。時代のニーズも考える」という茂木氏の言葉が額面通りなら、建設的な態度だ。

 根気の要る「政策」だから、こども家庭庁の始動を待てないなどと言わず、子育ての実情と感覚が分かる人を政策立案に巻き込んだ方がいい。野党の知恵も借り、国民が納得感と希望を持てる具体策を示せば、異次元の境地に立てる。

 同じことは、防衛力の抜本的強化にも通じる。

 ロシアの蛮行に驚き、中国の不穏な動きが怖いというだけでは、「対策」で終わる。日本が国際社会で果たす役割と防衛力のバランスについて大多数の国民の賛同を得た「政策」でなければ、政権が代わる度に方針が変わり、内外の不安要因になりかねない。

 「抜け道」無用の「政策」とするためにも、通常国会の論戦が大切になる。

プロフィル
伊藤 俊行( いとう・としゆき
 編集委員。1964年、東京生まれ。四半世紀も政治を取材しながら、いまだ分からないことばかりの世界と格闘中。ワシントン特派員、国際部長、政治部長を経て2020年6月から現職。草サッカーチーム「鰯クラブ」で一緒にプレーした俳優、故・大杉漣さんが体現していた「あるがままに」の生き様が目標。
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