AI太郎・中山高史のAIサバイブ論 第5回

前回まで、大手小売企業の情報システム統括役員を務めていた直近、分身の「AI太郎」をプログラミングし、オンライン会議に投入した話をしました。今回は、自ら手を動かしたからこその気付きを企業経営の視点で総括します。

生成AI全盛後の会社経営は劇的に変わる──。そんな問題意識を持つ経営者は多いと思いますが、それを単に効率化という視点で考えると見誤ります。一体どういうことなのか。著者が独自の視点で経営者に向けてAIに対する本質的な見立てを紹介します
生成AI普及後の会社経営は劇的に変わる──。そんな問題意識を持つ経営者は多いと思いますが、それを単に効率化という視点で考えると見誤ります。一体どういうことなのか。著者が独自の視点で経営者に向けてAIに対する本質的な見立てを紹介します(画像:J_News_photo/stock.adobe.com)

 米オープンAIの対話型AI(人工知能)「Chat(チャット)GPT」に代表される生成AIの出現によって、「AIに仕事を奪われる」ことが現実化しています。にもかかわらず、ビジネスパーソンはこう思ってはいないでしょうか。「日本には労働基準法があり、安易な解雇はできないから大丈夫」と。

 また経営者も、「AIを導入すれば業務効率は上がり、業績も上がっていくはず」という夢を見ているかもしれません。そして「AI時代の会社経営とは、『企業の効率化をどうするか』『AIに何をさせて、従業員に何をさせるか』を考えることなのだ」と。

 しかし僕は、AIの発達は、あらゆる企業に存続の危機をもたらすほどの破壊力を持つと思っています。経営者が今すぐAI時代に対応した考えや行動を始めないと、会社ごと全社員が路頭に迷うことになるかもしれない。本稿では、その理由を記していきます。

言うまでもなく、AIの進化で業界破壊が起こる

 AIの進化が、企業へのどんな脅威になるか? それは業界破壊が起きるということです。思い返されるのが、2010年に登場した配車サービスを手掛けるベンチャー企業の米ウーバーです。同社は、テクノロジーとビジネスアイデアのひらめきを組み合わせることで、タクシー業界の問題点(値段が高い、すぐにつかまらない、サービスのばらつきなど)を解決しようとしました。

 具体的には、個人が保有するクルマをタクシーのように扱うビジネスアイデアと、地図サービス「グーグルマップ」を配車や乗車料金計算などに使うというテクノロジーを組み合わせたビジネスを起業。このディスラプター(破壊者)の登場により、米国をはじめとするタクシー業界はあっという間に破壊され、業界は様変わりしました。わずか数年の間に起こった出来事です。

 僕は、23年に入って自分の分身「AI太郎」を開発することで、毎日AIに接しています。その体験から、ChatGPTに代表される生成AIの登場により、産業のディスラプション(業界破壊)が3年以内に様々な業界で次々と起きるだろうな、と確信するに至りました。

 AIによる業界破壊の例として、コールセンター業界を取り上げて、具体的に説明します。

 多くのコールセンターは、現在数百人規模の社員オペレーターと非正規社員のオペレーターを、10人程度のスーパーバイザー(トラブル対応支援や仕事の割り振りをするマネジャー)がまとめて、消費者からかかってくる電話の受付応答をしているのが現状ではないかと思います。

 採算性と競争がとても厳しい業界であり、顧客企業のヘルプデスク業務を受託するため、壮絶な価格競争をしています。もちろん素晴らしい対応が受けられる場合もありますが、「なかなかつながらない」「対応のクオリティーにばらつきがある」といった課題もつきものです。

 では、もし「異業種からコールセンター業界に参入せよ」、という問いを与えられたら僕ならどうするか? 今なら間違いなくAIをフル活用して、次のような手順で新規のコールセンターをつくるでしょう。

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