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第14回 周辺症状に対する向精神薬の使い方を考える
落とし穴が多い向精神薬の使用

2014/01/17

 認知症診療では、抗認知症薬とともに向精神薬を上手に使いこなせると診療の幅が広がります。患者さんが示す行動障害・精神症状(周辺症状)を軽減するためには、上手な介護や適切な対応など、いわゆる非薬物療法が第一に選択されるべきでしょう。しかし、実臨床では、非薬物療法だけで、家族や介護スタッフが困っている問題を解決できる事例ばかりとは言えません。むしろ、先生方の外来を受診する家族や介護スタッフは、非薬物療法に万策尽きて訪れることが多いのではないでしょうか。

 認知症患者さんに向精神薬を使用することの是非に関して多くの議論が行われていることは事実です。ここでは、その点には踏み込まず、実臨床における向精神薬の使い方や、副作用の発現を最小限に抑える手立て、そして何より、患者さん本人に迷惑を掛けない使用方法について、私なりの考えを述べてみたいと思います。

標的とする周辺症状と使用薬剤を一致させる
 向精神薬(抗精神病薬、抗うつ薬、抗てんかん薬、抗不安薬)を使用する際、最も重要なことは、標的とする周辺症状と使用する薬剤をマッチングさせることです。例えば、幻覚や妄想、暴力行為に対して効果を期待できる薬剤は抗精神病薬です。これらの症状を軽減させるため、抗不安薬を使用している先生を時折見かけますが、これらの周辺症状に対して抗不安薬を投与しても、効果を期待できません。そればかりか、ベンゾジアゼピン系の抗不安薬には抗コリン作用があり、せん妄や転倒などを惹起する可能性があるので、周辺症状を増悪させることも考えられます。

 向精神薬を使用する場合には、標的とする症状に効果を期待できる薬剤を適切に選択すべきです。図1は、私が考える向精神薬と標的症状の関係を示したものです。幻覚や妄想、暴力行為、易怒性などには抗精神病薬が第一選択薬です。抑うつ状態や焦燥、睡眠障害には、抗うつ薬を使用すると効果が期待できます。暴力行為や易怒性の軽減に抗精神病薬を使用したくないあるいはそれ以外の薬剤を選択したいときには感情安定薬としての作用がある抗てんかん薬を使用します。抗不安薬は、不安症状や不眠、軽度の焦燥などの軽減に役立ちます。

著者プロフィール

川畑信也(八千代病院〔愛知県安城市〕神経内科部長)●かわばた のぶや氏。1979年昭和大医学部卒。国立循環器病センター、秋田県立脳血管研究センター、成田記念病院〔愛知県豊橋市〕を経て2008年より現職。愛知県認知症疾患医療センターセンター長も兼任。

連載の紹介

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2020年、患者数が325万人に達するといわれる認知症。患者数の増加に伴い、認知症の診療におけるプライマリケア医の役割が大きくなっています。著者が遭遇した実際の症例を紹介しながら、認知症診療の「いろは」を解説します。
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