部屋に散乱するコンビニ弁当やペットボトルが静かに語りかけてくること 〜すぐそこにある孤独死〜

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この記事には、ご覧になられる読者によっては一部不快に感じられる場合がございます。予めご了承の上、ご覧下さい。

 

東京都監察医務院(平成29年/2017年)のデータによると、都内23区の単身者の異常死者(警察への届け出が必要な死亡)の数は男性が3,325人、女性が 1,452人。

ニッセイ基礎研究所の推計によると、2011年の全国の65歳以上の孤独死者数の推計値は年間で2万6821人である(自宅で死亡し死後2日以上経過を孤独死と定義した場合)。

また国立社会保障・人口問題研究所の統計によると、「単独世帯」は2015 年の1,842 万世帯(34.5%)から増加を続け、2040 年には1,994 万世帯(39.3%)と推計される。

このように単独世帯が増えていくと予想されるからには、孤独死の割合も人口動態にあわせて増えていくものと思われる。つまり孤独死は今後さらに増え、より身近になっていくということだ。

今回の「極限メシ」は、孤独死と食について考えてみたい。伺ったのは東京千葉埼玉神奈川の一都三県で遺品/生前整理・特殊清掃を行う株式会社ワンズライフ。事件現場特殊清掃士の鈴木康夫さん(写真下)にお話を聞く。

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応接室に現れた鈴木さんは、ほっそりとした、それでいて、どんな辛い環境でもじっと耐えることができそうなお顔をしていた。作業着ではなく袈裟を羽織ってしまえば、この方はいったいどこのお寺の高僧なのだろうかと思ってしまうに違いない。顔は履歴書とよく言うが、日々、死の現場に立ち続けていることが鈴木さんの顔を作っているのだと第一印象で確信した。

 

孤独死の主な原因はセルフネグレクト

──孤独死は増えている、という報道をよく目にしますが実際はどうなのでしょうか。

 

鈴木さん(以下、敬称略):あくまで体感的にですが、ご依頼の数は増えていると思います。今年に限っていえば突然死がすごく増えました。それも30代40代といった若い方ですね。50代も多いです。昨日まで普通に生活し、会話も出来ていたような方たちですね。そうした方が心臓発作になり、突然お亡くなりになります。もちろん、中には自殺のケースもありますが。

 

──発作ということは、なにかしらの持病が?

 

鈴木:糖尿病などの持病を持っている方もおられますが、持病もなく、本当にある日突然亡くなる方が増えました。しかもだんだん若年層化してきています。それこそ食生活も関係しているのかもしれません。あとストレスでしょうね。

 

──孤独死は身寄りのない方が多い、そんな印象を持ってしまいます。

 

鈴木:割合的には身寄りがある方が6で、ない方が4でしょうか。実際は身寄りのある方の方が多いんですね。なぜそれがわかるかというと、われわれに依頼が来るのは、すでに警察が調べた後だからです。仮に事件性がないのがわかれば、遺体を引き取ってもらわないといけないので、故人に関連した人に連絡が行き、私どもに依頼が来ます。その時点で身寄りがあるのか、もしくは天涯孤独なのかということがある程度わかります。

 

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──そもそも孤独死はなぜ起こるのか、という疑問もわいてきます。

 

鈴木:セルフネグレクト(生きるために不可欠な行為を行う意欲や能力を喪失し、自己の健康と安全を損なうこと)になってしまった方が多いように思いますね。自分自身や身の周りに気をかけられないほど心が折れてしまっている、といえばいいでしょうか。食事もお風呂もどうでもよくなって、トイレと布団の間だけ動いているような状態です。トイレだって、流すのも億劫になるからどんどんつまってくるわけですね。

 

──まさに茫然自失というか、自暴自棄というか。

 

鈴木:水道が止められていることもあります。電気や電話は滞納するとすぐに止まりますが、ライフラインの最後が水です。そうして、健康を害して自分で自分の首を絞めるような感じでジワジワ死に近づいていきます。そして最終的には主に心臓がダメになってしまって、亡くなってしまうんです。

 

──それこそそれほどお金を払えないのであれば、部屋には借金の督促状もたまってそうなイメージですね。

 

鈴木:借金のある方も中にはいらっしゃいますけど、全体の割合からすると、そんなに多くはありません。孤独死だから借金漬けになってて、というわけではないんです。

 

と、ここで同席していた上野社長が言い添えた。

 

上野社長:弊社に依頼いただく孤独死案件の故人様のほとんどが男性です。対して女性は極端に少ないです。男性に片寄っているのは、男女の思考の違いもあるのかもしれませんね。女性の場合、セルフネグレクトになるような心が折れることがあったとしても、まわりの女性が放っておかなかったりしますしね。「○○ちゃん元気?」とか用がなくてもLINEしてきたり。

 

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▲左が鈴木さん、右は株式会社ワンズライフの上野社長

 

「特殊清掃」という特殊な業務

孤独死で起こりがちなのは、発見が遅れること。つまり、死後かなり時間が経過してしまうことだ。当然ながら遺体は腐乱し、異臭を放つ。鈴木さんはそうした凄惨な現場に赴き、部屋を原状回復にまで持って行くという、特殊清掃士をされている。

 

──特殊清掃とはどんなことをするのか、お聞かせ願えますか。

 

鈴木:ひと言でいうと消臭消毒です。孤独死などによって誰にも看取られず自分の部屋で亡くなった場合、発見が遅れてしまうことがよくあります。夏場ですと4日もたてばご遺体は腐敗して臭気が発生したり、血液や体液が漏れ出て、衛生的に問題のある状態になってしまったり……。そうした状況ですと遺品整理をする前に、臭いの元や衛生面の問題をまずは取り除く必要がありますから。

 

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▲特殊清掃を行う鈴木さん。完全防備に見えるが、やはり処理後も臭いが体にこびりついて離れないこともよくあるという

 

──鈴木さんらがご遺体に接することは?

 

鈴木:それは100%ありません。まずどなたかがお部屋で亡くなられると、警察に通報がいきます。出動した警察が、事件性がないかを確認するために検視(変死体を調べること)をしたり、遺族や第一発見者などに事情聴取が行われたりします。その後、ご遺体が引き取られた後に、私たちの元へ連絡が来て、それから出番となります。

 

──現場に向かうタイミングはいつごろですか。

 

鈴木:なるべく即日で伺うようにしています。これからの夏場は、いかに現場に早く駆けつけられるかで近隣の方への影響やその後の作業工程がだいぶ違ってきますから。

 

──部屋の様子というのは全部、亡くなられたまんまの状態で残っているんですか。

 

鈴木:そのまんまです。なんにも手が付けられていない状態ですね。だから、どういう状態でお亡くなりになったのか、如実にわかります。 

 

──孤独死の場合はどういうお宅が多いんでしょう。

 

鈴木:持ち家の方が大邸宅で孤独死するのは、少数ですね。どうしても賃貸の場合が多いんですが、それも多くはワンルームマンションです。 よくある依頼主は、賃貸なら物件の大家さん、不動産の管理会社ですね。近所の方から直接電話があるということは皆無。賃貸の場合、親族から依頼されるケースもあります。

 

──それにしても、作業自体かなり大変ではないかと察しますが。

 

鈴木:どうしても血液や体液の完全除去が必須になってきますね。ただ、それもどこにご遺体があったかで違ってきて、たとえば浴室(ユニットバス)の場合、浴槽や床のプラスチック部分を交換したり、除菌清掃消臭コーティングによって臭いを閉じ込めたりします。ベッド、布団、板の間、畳などで亡くなっている場合、床下まで体液がしみ込んでしまっている場合がありますから、床を剥がして臭いの元を突き止めてから処理していきます。鉄筋コンクリートの物件や木造の玄関付近のコンクリは除菌清掃消臭コーティングによって臭いを閉じ込めるしかありません。程度によっては下の部屋のリフォームが必要になってくる場合もあります。

 

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▲孤独死の現場はワンルームマンションが多いという(写真提供:株式会社ワンズライフ。プライバシー保護のために画像をボカしてあります)

 

部屋のそこかしこに漂う主の気配

──孤独死された方の部屋に傾向のようなものがあれば知りたいです。

 

鈴木:もっとも多いのは、思い出の写真を大事に持っていらっしゃる方ですね。その次は趣味の道具を持ち続けている方。コレクターさんもいっぱいいます。印象に残っている中でまっさきに思いつくのは、70代の方。ヌード雑誌のポスターとかそういったものに女子アナの顔写真をくっつけて壁一面にずらっと貼り付けていました。

 

──現場に一歩足を踏み入れる瞬間はどんなお気持ちなんでしょう。

 

鈴木:毎回、手を合わせてからお部屋に入っていきます。というのも、故人の気配が部屋に残っているんです。気配どころか(故人から)話しかけられることもしばしばですね。あ、今日はそんな趣旨じゃありませんでしたか。

 

──え、ええ……さすがにそちらの話はまた別の機会で……。

 

鈴木:「そこにいた」という気配のようなものは、もちろん感じますね。亡くなられた痕跡が人型になっていて、こちらが頭でこちらは腕、そしてこちらは足という具合に、その場にくっきり残っていたりしますから。もちろん、普段の生活ではまず嗅がないような強烈な臭いも残っています。

 

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▲布団中央の赤黒い部分は血ではなく体のタンパクが溶けたもの。血であれば黒くなる。こういったものが室内に残っているという(写真提供:株式会社ワンズライフ。プライバシー保護のために画像をボカしてあります)

 

──特殊清掃に限った場合、どんな部屋が印象に残っていますか?

 

鈴木:部屋の天井近くまでゴミがあった部屋です(と、高さを手で表しながら。下の写真参照)。ハシゴに登って2階の窓から入って、天井付近の隙間を這って歩いて部屋の奥へ入っていきました。なぜそんなことをしたかというと、入り口のドアが日本では珍しい内開き式だったんです。そのドアの開閉部でお亡くなりになっていたため、入れなかったわけですよ。新聞やペットボトル、そして弁当の空箱といった生活ゴミが雪崩のように崩れてしまい、ご遺体が埋もれていたのがすぐに察せられました。本人も動けないギリギリのところだったのかもしれません。

 

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▲身振り手振りで部屋の様子を話す鈴木さんの話は、どこまでもリアルだ 

 

鈴木:こんなこともありました。「寝ていたら、顔にしずくが落ちてきて目が覚めた。嗅いでみるとすごく臭い」と1階の居住者から大家さんに苦情が寄せられ、最終的に私たちのところに依頼が来ました。2階に住んでおられた方がお亡くなりになって、ご遺体が腐敗し、お布団から畳、真下の部屋の天井、そして照明の笠へと体液が伝い、ポタポタとその方の顔に落ちていたんです。

 

──そんな、恐怖マンガのような話が現実に……。

 

鈴木:それと大変なのが、虫ですね。天井がやけに黒いなと思ってツンツンとつつくと、その途端に天井が真っ白になっていったことがあります。蜘蛛がダーっと蠢いて逃げたんです。ハエやウジはもちろん、見たことないような虫もいっぱいいます。ふくらはぎをダニに刺されて大変になってしまうことがしばしばありますね。

 

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▲モノが散乱する故人の部屋。ここまでの状態になっていることも珍しくない(写真提供:株式会社ワンズライフ。プライバシー保護のために画像をボカしてあります)

 

「みなさん、お皿じゃなくてパックで食べておられますね」

──孤独死と食について伺います。生活保護を受けていた方が亡くなり、発見されたとき所持金がわずか数十円だったといったニュースを耳にしたことがあります。そこまで困窮するとパンひとつ買えません。そうして餓死してしまうようなケースはあったりするんでしょうか。

 

鈴木:私の知る限りでは、餓死される方は滅多にいません。人にとって一番苦しいのは、空気が吸えないこと。その次が飢えや渇き。だから餓死するまで我慢できないんですね。現実の世界に、阿闍梨(あじゃり。模範となるような高僧のこと)のような人はなかなかいません。電気止められていてガスも止められて、ろうそくとカセットコンロだけで暮らしていた方もいらっしゃいました。その方は70代男性でした。

 

──逆にお金を持っていて美味しいものを食べすぎて栄養過多になるというのは……。

 

鈴木:そうですね。このあいだ伺ったお部屋の方は突然死だったんですけどね。確か、50代だったでしょうか。すごくお金持ちの方だったからなのか、自炊をされている痕跡はまったくなかったですね。

 

──孤独死された方の食事の傾向ってあるんでしょうか。

 

鈴木:年齢関係なく、全体的にコンビニのものを食べてらっしゃる。お弁当の空き箱とか、カップラーメンが非常に多いですね。あとはペットボトルの水とジュース。

 

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▲故人いきつけだったのだろうか、黄色いスーパーの袋が目立つ(写真提供:株式会社ワンズライフ。プライバシー保護のために画像をボカしてあります)

 

──なるほど。

 

鈴木:それでもきちんとペットボトルはペットボトルだけ、弁当箱は弁当箱だけで集めていて、「分別しよう」という気持ちはおありだったんだなと。そうしたケースは結構見受けられます。あと若い方はカップ麺も多いですが、40~50代以上になるとやはり白飯。白飯はどなたも欠かさないですね。50~60代以上になると、炊飯器の中に白飯が残っているケースもありますね。発見されたときは、もちろんそれは食べられない状態になっていますが。

 

──ご遺体ほどじゃないにせよ、食べ物が現場に残されていることも少なくないでしょうね。

 

鈴木:ありますね。今まで食べていたパックに入ったものを、テーブルに置いてそのままお亡くなりになったりですとか。冷蔵庫の中じゃなくて、今そこで食べようとしていたものがテーブルの上に置いてあったりとか。みなさん、お皿じゃなくてパックで食べておられますね。

 

──それこそアルコール依存症になってしまって酒瓶だらけの部屋もありそうです。

 

鈴木:大容量で安価なペットボトル焼酎の空きボトルがたくさん部屋に転がってたりしたことはありますよ。まぁ、お年寄りがほとんどです。ペットボトルに小便をして床に放置されてたりね。反対に若い人でアルコール依存らしき人はほぼいないですね。

 

──トイレすらめんどうくさくなる。冒頭でおっしゃったセルフネグレクトに近い状態ということですかね。

 

鈴木:動きたくなかったり、あるいは体が動かなかったり、事情はそれぞれでしょうけど、宅配で食べ物をお取り寄せしている方が多いですね。それが直接の死の原因になっているかどうかまでは、なかなかわかりませんが。

 

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▲キッチンで倒れたのだろうか(写真提供:株式会社ワンズライフ。プライバシー保護のために画像をボカしてあります)

 

他人がやりたがらない仕事だからこそ

鈴木さんは7年前にこの業界に転職した。これまでに手がけた件数は約1,000件で、そのうち特殊清掃は約200件にのぼるという。

 

──鈴木さんは、そもそもなぜこの様な過酷な仕事を始められたんですか。

 

鈴木:この仕事を一生の仕事としていこうと決めたキッカケはテレビです。事件現場を清掃する方をリポートする番組を見て衝撃を受け、「これほど自分に合っている仕事はない」とそのとき思ったんです。当時、私は住宅のリフォームや不動産関係の仕事を手がけていて、その経験や知識が活かせるとも考えました。それに、やや誤解を招くかもしれませんが、昔から「他人が嫌がる」仕事をするのが好きな性分なんですよ。

 

──なかなかマネができないことだと思います。

 

鈴木:はい。「誰もやろうとしないなら、自分がやる」といったところでしょうか。幼少のころから親に「世のため人のために献身しなさい」と聞かされて育ってきたので、他人のやらないことを率先してやることで喜ばれることが好きなんです。

 

──とはいえ、やはり生半可な気持ちでは決して務まらないお仕事だと思います。鈴木さんご自身はメンタルやフィジカルをどうやって整えておられるのか、つい気になってしまいました。

 

鈴木:うーん、至って普通にしてますけどね(苦笑)。自分自身に関して、何かを気をつけているかとかっていうのは全然ないです。ほかのスタッフには申し訳ないんですが、現場によっては事務所に戻ってきてもどうしても自分から臭いがしちゃうときってあるんですよね。それぐらい、体に臭いが染みついたときでも、食欲がなくなるということはありません。これは慣れもありますけど、何より向き不向きという要素が大きいです。その点、自分は全然大丈夫でしたね。

 

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▲孤独死されるのは貧困状態にある方ばかりではない。(写真提供:株式会社ワンズライフ。プライバシー保護のために画像をボカしてあります)

 

──原発の除染作業員のような防護服でも、一度ついた臭いはなかなか消せない。

 

鈴木:防護服の目的は、体液、つまり汚染物の付着から身を守ることなので、むしろ防臭効果はあまりないんです。だからどうしても髪の毛とかは臭ってしまいますね。会社に帰ってくると、他の社員に申し訳ないぐらい。

 

日によっては二度三度も現場に赴くこともあるという。このインタビューを行っていたのは土曜の夕方だったが、こちらの取材が終わると、すでに次の現場が待っているとのこと。この業種には土日も祭日もない。必要とされる以上は行かなければならない。思わず鈴木さんに向かって手を合わせたくなってしまった。

 

故人の生前に思いを馳せる 

──最後に、鈴木さんが仕事に向かうとき、いつも心がけているポリシーがあればお聞かせ願えますか。

 

鈴木:人生の最終局面といいますか、最期の場面です。「お気持ちわかりますよ」「そうですか、お辛かったでしょうね」などと故人の感情に思いを馳せるようにしています。故人に寄り添いながら、最期のシーンを看取るといいましょうか。その上で、ご本人やご遺族の代わりにご遺品を整理させていただいています。

 

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──孤独死=悲惨という印象で捉えられがちですが、お話を伺って決してそんなことはないと感じました。最期がたまたまおひとりだった、と。また仮に、本人がさまざまな思いを残したまま最期を遂げたとしても、鈴木さんのような方に気持ちを汲み取って清掃してもらうことで、故人やご遺族もきっと救われるのではと思いたいです。

 

鈴木:はい。中には別れたお子さんの写真を、後生大事に枕元に置いたまま亡くなっている男性もおられました。家族と別れた後、強がって生きてこられたのかもしれません。しかしそんな方も、台所などから実際の暮らしぶりを察すると、だいぶ弱っておられたのをうかがい知ることができました。こうした方のように、お嬢さんのものや、小さいときからの写真など、子供にまつわるものをずっと大事にしてこられた方は珍しくありません。

 

──貴重なお話を本当にありがとうございました。

 

孤独のままに亡くなった男性が、写真など子供ゆかりの品物を大切に保管しているという話に私は動揺を隠せなかった。5年前に妻と別れた後、私はずっと一人で暮らしている。娘の幼児期に撮った写真や読み聞かせた絵本、もうサイズ的に着ることができない子供服などをいまも大切に保管している。だからこそ孤独死した彼らと自分の将来をつい重ね合わせてしまったのだ。

現在49歳の私が、20年、30年とこのまま一人暮らしをしていれば、孤独死しても全然おかしくない。突然死だって起こらないとは限らない。そうならないためには、たとえ別々に暮らしているとはいえ、家族の絆を維持しておくことが肝要なのだろう。もちろん、心身の健康や日々の食生活にも気を配らねばならない。

今後、単身世帯は増え続け、2040年には現在よりも5%ほど多い、全世帯の40%近くにまで増えると推計されている。言い換えれば4割にのぼる人が孤独死の予備軍ということだ。明日は我が身、ということはこれを書いている筆者が誰よりも痛感している。

 

最後に、孤独の中人知れずお亡くなりになった方々のご冥福をお祈りして、この記事を締めくくりたい。

 

書いた人:西牟田靖

西牟田靖

70年大阪生まれ。国境、歴史、蔵書に家族問題と扱うテーマが幅広いフリーライター。『僕の見た「大日本帝国」』(角川ソフィア文庫)『誰も国境を知らない』(朝日文庫)『本で床は抜けるのか』(中公文庫)『わが子に会えない』(PHP)など著書多数。2019年11月にメシ通での連載をまとめた『極限メシ!』(ポプラ新書)を出版。

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