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非専門医による
向精神薬の管理について
高尾碧
内容
1. 薬の相互作用について
2. 向精神薬の依存性と副作用について
3. パーソナルドラッグについて
1.薬の相互作用について
• 交感神経遮断作用
• 向精神薬のほとんどは交感神経の節後神経(伝達物質はノルアドレナリン
(NAd))の機能に影響する
• よくある副作用:起立性低血圧
• 交感神経作動作用
• 抗うつ薬はNAdの作動作用が強い
• 抗アセチルコリン作用(抗Ach作用)
• ほぼ全ての向精神薬には抗精神薬には抗Ach作用がある
• よくある副作用:腸管蠕動低下、血圧低下、心拍数低下
鈴木映二(2016). 薬物相互作用 medicina, 53, 1984-1988.
1.薬の相互作用について
抗うつ薬との併用での注意点
• 薬力学的相互作用
• モノアミン神経系亢進作用:モノアミン酸化酵素(MAO)阻害薬とは併
用禁忌
• QT延長:他のQT延長を引き起こす可能性のある薬剤との併用に注意
• セロトニン症候群
• 出血傾向
• アドレナリン作用
鈴木映二(2016). 薬物相互作用 medicina, 53, 1984-1988.
睡眠薬・抗不安薬との併用での注意点
• 薬力学的相互作用
• 多くはγ-アミノ酪酸受容体を介した神経抑制作用により効果を発揮する
• 筋弛緩作用と認知機能障害に注意が必要
• 薬物動態学的相互作用
• ほとんどが肝代謝酵素のシトクロムP450(CYP)3A4で代謝される
• 中間代謝物による作用遷延
• 多くは中間代謝物をもつものが多く、活性を持っていることが多い
• 血中半減期が3〜10日と長いもの(例:N-デスメチルジアゼパム)も
あり、持ち越し現象には注意が必要
鈴木映二(2016). 薬物相互作用 medicina, 53, 1984-1988.
1.薬の相互作用について
1. 薬の相互作用について
2. 向精神薬の依存性と副作用について
3. パーソナルドラッグについて
内容
2.向精神薬の依存性と副作用について
一般的に、向精神薬の投与を始めることは簡単
しかし一旦開始した後に止めることは難しい
精神科薬物療法の出口戦略は、
必ずしも「薬物療法の中止」を目指すものではない
患者・家族と医療者間で
共同意思決定(Shared Decision Making: SDM)を行い、
「安全な長期維持療法」を選択するか、
「減薬・中止」を試みるか、を決める
ー抗うつ薬ー
• 薬理作用
• シナプスにおけるセロトニンやノルアドレナリンの再取り込みを阻害
• 副作用
• 投与初期の悪心、下痢などの消化器症状
• 口渇、倦怠感、傾眠
• 中止後症候群(discontinuation sundrome)
• 一般に抗うつ薬に身体依存、耐性形成はないとされているが、抗うつ薬を中止後数
日で生じる可能性のある症状
• 身体面:嘔気、振戦、発汗や頻脈などの自律神経症状、知覚障害(頭の中がぴりぴ
りするなどの訴え)、頭痛
• 精神面:不安・不眠、焦燥
仙波純一(2016). 精神科治療薬の依存と副作用 medicina, 53, 1989-1991.
2.向精神薬の依存性と副作用について
2.向精神薬の依存性と副作用について
ーベンゾジアゼピン系薬剤ー
• 薬理作用
• GABA-A受容体上にあるベンゾジアゼピン受容体に作用
• 抗不安作用、催眠作用、筋弛緩作用、健忘作用、抗痙攣作用などを有する
• 副作用
• ふらつきなどの運動失調、眠気、易疲労性、記銘力低下、奇異反応
• 離脱症状
• 一般に数週間以上使用すると、突然中止した際に離脱症状を呈する
• 身体面:振戦、時に痙攣発作(長期高用量の服薬後)
• 精神面:不安・不眠、記憶力や集中力の低下、稀に幻覚や妄想
仙波純一(2016). 精神科治療薬の依存と副作用 medicina, 53, 1989-1991.
• 常用量依存の問題1)
• 通常の使用量にとどまっているが、完全に中止できない
• 減量法
• 現時点では定説はない
• 一般的には、2〜4週ごとに、服薬量の25%を減薬し、減量による症状再燃
があれば一旦元の量に戻して、より緩徐に減量する2)3)
• 抗不安薬に関しては、離脱症状の生じにくい長時間作用型に置換してから漸
減する方が、漸減は成功しやすい3)
1)仙波純一(2016). 精神科治療薬の依存と副作用 medicina, 53, 1989-1991.
2)高江洲義和(2021). 向精神薬の出口戦略ー睡眠薬 臨床精神薬理, 24, 943-949.
3)大坪天平(2021). 向精神薬の出口戦略ー抗不安薬 臨床精神薬理, 24, 951-959.
2.向精神薬の依存性と副作用について
ーベンゾジアゼピン系薬剤ー
内容
1. 薬の相互作用について
2. 向精神薬の依存性と副作用について
3. パーソナルドラッグについて
3.パーソナルドラッグについて
一言で「向精神薬」と言っても、種類は多く、年齢・状態像・全身状
態・併用薬物などに応じて使い分ける必要がある
全ての向精神薬を使い分けることが理想的ではあるかもしれないが、
種類の多さや、自施設で採用されている薬の種類などからは、
現実的な選択肢はある程度限定されている
自身が使い慣れた薬の中から、患者の状態に応じて使用していく
ことが実臨床では有用と考えられる(Personal drug:P-drug)
P-drugの選択 患者の治療
Step1. 診断の定義 Step1. 患者の問題の定義
Step2. 治療目標の特定 Step2. 治療目標の特定
Step3. 適応薬物リスト作成 Step3. P-drugの適切性の確認
Step4. 薬物群の選択 Step4. 処方箋を書く
Step5. P-drugの選択 Step5. アドバイス
Step6. 処方集の作成 Step6. モニター
3.パーソナルドラッグについて
• 医師が日常的に使用できる薬剤は約50種類と言われており、それ
らの中から医師が使い慣れている薬剤を選択していく必要がある
• 向精神薬の場合、作用機序、作用時間などの特性を踏まえ、
それぞれ2種類以上は使い慣れておくと良い
まとめ
● 向精神薬の多くは交感神経遮断作用・作動作用、
抗アセチルコリン作用を有する
● それぞれの薬の薬力学的相互作用を知っておく
● ベンゾジアゼピン系薬剤には依存性がある
● 投与開始、投与中も症状をモニターしつつ、継続・
中止などについても相談する
● 自分が使い慣れたP-drugを設定しておくと、
対応しやすい

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